小説『ザ・民間療法』花山水清

人体の「アシンメトリ現象」を発見し、モルフォセラピー(R)を考案した美術家<花山水清>が、自身の体験をもとに業界のタブーに挑む! 美術家Mは人体の特殊な現象を発見!その意味を知って震撼した彼がとった行動とは・・・。人類史に残る新発見の軌跡とともに、世界の民間療法と医療の実像に迫る! 1話3分読み切り。クスッと笑えていつの間にか業界通になる!

カテゴリ:Essay > book



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地球ものがたり インカの村に生きる
関野 吉晴
ほるぷ出版
2012-11-01

 昨日から、探検家の関野吉晴氏の『インカの村に生きる』という本を再読している。

ここに登場する「インカの村」とは、ペルーの標高4300mの高地にあるケロ村のことだ。

標高4300といわれてもピンと来ないだろうが、富士山よりもさらに500mも高い。


 このケロ村では、インカの時代とほぼ同じ、自給自足の生活が続いている。

本書では、そのケロに生きる人々の暮らし、貴重な習俗の記録が、数多くの写真で綴られているのだ。

どうしてこれほど美しいのか、ため息が漏れる。

この写真の美しさもさることながら、ファインダーを覗く彼の視線もすばらしい。


 だがさらに驚かされるのは、彼の体力なのである。

ケロ村までは車の通れるような道もなく、岩山を縫うようにして徒歩で登っていくしかない。

しかも、平地ではない。

標高4300mである。

当然、空気も薄いのだ。


 高山病は2500~3000mぐらいで発症するといわれている。

日本人に人気の高いあのマチュピチュ遺跡は標高2400mだ。

あそこでは、近くまでは行ったものの、高山病で目的地まで到達できない人も多いし、毎年何人もの日本人観光客が、高山病で亡くなっているときく。


 以前、恩師の相沢韶男先生が、バスでチベットのラサに向かった。

途中で立ち小便しようと思って下車したら、先に用を足していた人がそのままバタッと倒れた、と話してくれた。

そのラサだって標高3600mだ。


 かつて私も、ヒマラヤのふもとにあるガントクという街に行ったことがある。

ガントクには、軍隊しか通らないような険しい道を、延々と登っていくのだ。

いたるところに崖崩れがあり、谷底は遥か彼方にかすんで見えた。

そこでせいぜい標高2000mぐらいだったが、私にとっては大冒険だった。


 ケロはそこからさらに2000m以上も雲の上なのだから、尋常ではない。

そこに大荷物を背負って徒歩で行くなど、信じがたい体力だ。

高地となれば気温差も大きいはずだから、私など到底生きてたどりつける自信はない。

運良く到達できたとしても、また歩いて降りてくるという試練が待っている。

そんなことに思いを巡らすと、軽いめまいとともに、この写真の1枚1枚のありがたみが、さらに脳天に沁みてくるのであった。(花山水清)

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私が大好きな西岸良平のマンガに、『三丁目の夕日』という作品がある。

実写での映画にもなったので、ご存じの方も多いだろう。

この作品の時代設定は昭和30年代だ。

コマの隅々まで、私が子供のころに見て育った風景だから、見ていて飽きない。


流行に疎い私は、マンガだけでなく音楽からファッションまで、昭和仕様のままである。

昔は良かったなどというつもりもないが、科学以外のこととなると新しさには関心が薄いのだ。

そして今、なじむ間もなく平成という時代も終わろうとしている。


歴史区分では、現代に近い時代のことを近代という。

今までの日本では、明治から太平洋戦争集結までを近代としていた。

ところが平成が終わると、ずっと現代だと思ってきた戦後まで近代となり、昭和はまるごと遠い過去に押しやられてしまう。

『三丁目の夕日』どころか、平成よりも前のことなど、だれも懐かしがらない時代がくるのだ。


そういえば子供の時分、まだ町内には慶応生まれの人が生きていた。

「え! あの薬屋のばあさん、江戸時代の生まれなの!?」などと話していた記憶があるから、100近い年齢だったのだろう。

幕末の動乱、明治維新、大正デモクラシーに世界恐慌、2度の大戦の時代を生き通したとなると、驚異的な人生だ。

子供にしてみれば、化石のようなものすごい年寄りにしか思えなかったが、昔話の一つでも聞いておけばよかった。(花山水清)

改元の騒ぎを耳にすると、ふとそんなことを思い出すのである。


■元号メモ

・慶応 1865年~1868年  4年間
・明治 1868年~1912年 45年間
・大正 1912年~1926年 15年間
・昭和 1926年~1989年 64年間
・平成 1989年~2019年 31年間

( Wikipedia http://tinyurl.com/y8tkewn3 )

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オロッコ譚 (1959年)
若山 純一
穂高書房
1959T

『オロッコ譚』若山純一著

北方民族オロッコを主人公に、ロシア革命前夜の情景を描いた小説。

オロッコというのはサハリンに住む少数民族である。北海道の先住民族アイヌとも人種が違うが、下記の『十勝平野』とともに、極北というかなり特殊な環境での物語である。


十勝平野(上)
上西晴治
筑摩書房
2013-12-20

十勝平野(下)
上西晴治
筑摩書房
2013-12-20


『十勝平野』上西晴治著

北海道の十勝平野を舞台に、和人入植当時のアイヌ民族の苦闘を描いた小説。アイヌをテーマに書き続けてきた著者の集大成ともいわれる作品である。上下巻の大著が今なら Kindle でも読める。

 
両書とも、歴史書の類では絶対に見えてこない生の人間の息遣いが伝わってくる。作者本人がその場にいたとは到底考えられないのに、なぜこれほどリアルに表現できるのかとただただ圧倒される。

単なる読書の領域を越え、その場に生き、それを自分を見たと感じられるほど、どっぷりと浸り切る体験ができる稀書である。(花山水清)

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あるとき、武蔵野美術大学の相沢韶男先生が、リヤカーに自著を積んで売っている男に出会った。

話を聞くと、これからリヤカーを引いて日本中を売って回るつもりだという。

早速、彼の本を買い求めて読んでみると、とんでもない名著であった。

学生たちにもすすめ、一部地域では話題の本となった。

この本『馬の骨放浪記』を書いた山田勝三さんは、大正生まれの全く無名の人である。

彼には親も家もなく、橋の下での記憶から始まる壮絶な人生を綴った自伝だ。

自分の名前も年齢もわからないまま、兵隊として戦争で中国にも渡った。

そして帰国後、頭が禿げ上がる年齢になってから、夜間中学に通い始めて文字を覚えた。

そしてこの本を書いたのである。


千枚にも及ぶ手書きの原稿を持ち込んだ出版社で、出版に至る経緯にもドラマがあった。

本書を超える本は存在しないのではないかと思うほど、強烈な内容である。

孤児の悲惨、里親からの虐待、軍隊でのいじめ、詐欺、それでも曲がることのないまっすぐな魂。

ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』など、はるか足元にも及ばない驚愕の「実話」なのだ。


これほどの本が絶版になったままなのは本当に惜しい。

私はなんとかこの本の存在を残したくて、自著の参考図書のリストにも紛れ込ませた。

だれも気づいていないようだが、「馬の骨」といっても決して博物学の本ではないのである。(花山水清)

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