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アメリカの映画やドラマを見ていると、彼らは赤ちゃんが大好きなようだ。生まれたばかりの赤ちゃんがいると、みんな「私も私も!」といって、順番に抱っこさせてもらうシーンがよく出てくる。
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アメリカの映画やドラマを見ていると、彼らは赤ちゃんが大好きなようだ。生まれたばかりの赤ちゃんがいると、みんな「私も私も!」といって、順番に抱っこさせてもらうシーンがよく出てくる。
もちろん日本にも、赤ちゃん好きはたくさんいるだろう。ところが私は、赤ちゃんは大の苦手である。友人たちは子供が生まれると、「抱っこしてみて」と気軽に赤ちゃんを差し出してくる。これには困っている。
イヌやネコならともかく、人間の赤ちゃんはどう扱ったらいいのかわからない。高価でもろいガラス細工のようで、私には怖くてとても手に取れない。私なんかに渡して、首も座らない赤ちゃんに何かあったらどうするのだ。
しかしこの仕事を始めてからは、赤ちゃんどころか大人の体に触れるのも怖くなってしまった。ちょっと転んだ拍子に打ち所が悪くて、などという話を聞くこともあるから、施術の力加減によっても、相手にどんな危害が及ぶかわからない。そう考えると、できるだけ触らないですませたいとすら思っている。
以前、カースタントのボスが、「スタントを一か八かでやるのは素人だ。事前にとことん計算しつくして、安全を確保してからやるのがプロなんだ」といっていた。それが習慣になっているからか、彼は何をするにも常に一般の人よりも慎重である。
私もボスにならって、人の体に触れる際には、とことん安全に配慮している。決して強く押したり、たたいたりもしない。森本さんにだって、指で軽く触れていただけだったのだ。それなのに、その刺激でこんなに痛がっている。これには私も困惑した。
若くても、骨粗鬆症で骨でも折れたのだろうか。イヤ、私は相手の体に対して、垂直に力を加えることはない。必ず皮膚表面で指を横にすべらせて、力が逃げるようにしているのだ。だからこの刺激で、骨にダメージが加わったとも考えられない。
彼女の体に何が起きたのかはわからないが、私が手を離すと痛みが消える。それならこの痛みの原因は、ケガのようなものではないのだろう。ケガ的なダメージなら、自分で触っても痛いはずだ。
しかし森本さんも、私が手を離して痛みが消えてしまうと、何が痛かったのかよくわからないようである。そこで試しに、同じところを先ほどのように刺激してみる。するとやはり痛い。
しかも触れられると痛いのは、背中の左側にあるあのしこりの部分だけではなかった。体中のどこでも、私の指が触れると飛び上がるように痛いらしい。ついさっきまではあんなに刺激に対して鈍感だったのに、いきなり過敏な体になってしまったのだ。
また刺激によって変化したのは、痛みの感覚だけではなかった。それまでは、若い女性にしては肉質が非常に硬くて、皮膚もパンと張っていた。しかしひどく痛がるようになってからは、肉質がやわらかくなった。一瞬にして、筋肉がほぐれてしまっているのである。
このやわらかさから判断すると、私はこれが悪いことだとは思えなかった。本人も、この変化は自分の体にとって良いことだと感じているようだ。
そこでもう一度、刺激を加えてみると、痛いながらもどんどん筋肉がやわらかくなっていく。そのまま追い込むように刺激をつづけると、今度は左腰の上にあったしこりまでが、みるみる風船がしぼむようにへこんできた。
この変化には、森本さんも私以上に驚いている。看護師としての医学知識や経験からも、この現象は説明がつかないようだ。さらに彼女の体には、驚くべき変化が訪れていたのだった。(つづく)
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