*小説『ザ・民間療法』全目次を見る
小説『ザ・民間療法』挿し絵066

あれから2週間がたった。
あんなに楽しみにしていたのに、森本さんのアパートに向かう道すがら、つい心配性の私が顔をのぞかせていた。ひょっとしてあのときの刺激が元で、彼女は体調を崩しているのではないか。何か悪い影響が出ているのではないか。そんな不安が心のなかで渦巻いていた。

しかしアパートの呼び鈴を押すと、ドアを開けた森本さんが明るい表情なのを見てホッとする。それどころか彼女は待ちかねたように、「あれからずっと体調がよくて~」と勢いよく話し出したのだ。

「あのあとすぐ生理がきたの。いつもはとんでもない激痛なのに、今回はぜんぜん痛くなくてね。パッと来てパッと終わったのよ~。もうこんなこと初めて!ふしぎ~っ」と息もつかずに、あの施術の効果を興奮気味に報告してくれた。

よかった。私だって良い結果になりそうな予感はしていた。でも、本人から話を聞くまでは、自信めいた気持ちと不安な気持ちが、心のなかで行ったり来たりしていたのである。

「よし、それなら」と、早速前回のつづきに取りかかる。布団の上にうつ伏せになってもらうと、彼女の左腰の上にある例のしこりが、また盛り上がっている。その部分をねらって前のように攻めてみた。

やはり前回同様、しこりは私の指を強くはじき返してくる。この硬いゴムのような感触は、やはり右側とは全くちがうものなのだ。それをたしかめながら、あらゆる角度からしこりを目がけて刺激をつづける。

すると少しずつ変化し始めた。刺激が痛みになってきていることが、私の指先に伝わってくる。同時に森本さんからも、「イタイ~ッ」と喜びの声が上がる。さてここからが肝心だ。前回は、あっという間に元にもどってしまった。だから今回は、間をおかずに刺激しつづける。

そうしているうちに、あれだけ痛がっていた森本さんが、なんとスースーと寝息を立て始めた。もちろん痛みで失神したわけではない。私も少し疲れたので、刺激を一休みして彼女にはそのまま寝てもらった。

15分ほどして自然に目を覚ました彼女は、自分がすっかり寝入ってしまったことに驚いている。「たった15分でも、長時間眠ったあとみたい」といって、久しぶりに深く眠れたのがうれしそうだ。そして「あれだけ痛かったのに、なんで眠くなっちゃうんだろう」と、またふしぎがっている。

スッキリしたところで刺激を再開する。2週間前のときと同じように、背中のしこり部分だけでなく、どこを刺激しても痛く感じるようになってきた。そこで今度は仰向けになってもらって、おなかにも刺激を加えてみる。

おなかへの刺激も痛みとして反応が出た。するとパーンと張っていた体が、どんどんやわらかくなっていく。いわゆる女性らしい筋肉の感触になってきた。本人の話でも、以前はもっとやわらかい体だったのに、気づいたときには硬くなっていたようだ。

そうこうするうちに、今日もあっという間に1時間を超えていた。迷いなく進められたので、これで刺激としては十分だろう。つづきはまた次回にしよう。

森本さんは相変わらず「ふしぎ~」を連発している。たしかにそれ以外に表現しようがない。彼女は私の施術を受けてからというもの、自分の体に起きたこのふしぎな現象を、職場の医師たちにも話してみたらしい。しかしどう説明してみても、だれにもわかってもらえなかったといって悔しがっている。

さすがにこれは、自分で体験してみなければ理解できないだろう。たとえば、悪霊がついたら体が硬くなって、悪霊を払ってもらった途端、体がやわらかくなった。そんな話を聞いて、そのまま理解してくれる人はいないはずだ。

悪霊つきの話でなくても、聞いたことも見たこともないふしぎな現象の話など、医師がまともに取り合うはずがない。だがこの現象は、病気が発生するしくみに深く関わっている。そんな確信めいた考えが、私のなかに芽生え始めていた。(つづく)


*応援クリックもよろしくお願いいたします!
にほんブログ村 小説ブログ 実験小説へ
にほんブログ村

長編小説ランキング

FC2ブログランキング