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がんの話をすると嫌われる。ここのところ、それを実感するようになった。
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がんの話をすると嫌われる。ここのところ、それを実感するようになった。
がんという病気は、病院で発見されるまではほとんど症状がないのに、末期になるといきなり激痛におそわれる人が多い。
「痛みのあまり絶叫して、アゴの骨がはずれた」とか、「痛みのせいで力いっぱいしがみついて、病院のベッドの鉄パイプを曲げてしまった」といった話まである。そういう話ばかり聞かされるから、みんな「がんにだけはなりたくない」、「がんの話なんて聞きたくもない」と思っているのだ。
肺がんが見つかったとたん、あっという間に亡くなった芳子さんも、入院したら急に痛みが出るようになって、モルヒネまで投与されていた。それほどがんで痛みが出ることは珍しくないらしい。
しかし先ほどの下田さんをおそったあの激痛は、がんのせいではなかった。単に背骨がズレたことによって引き起こされた痛みだったのだ。
本人の話では、確かにがんのあるところが痛かったらしい。これは偶然なのか。それとも背骨のズレとがんの場所には、何か関係でもあるのだろうか。
下田さんがあのまま病院に行っていたら、がんによる痛みだと診断されただろう。病院では、背骨がわずかにズレた程度でおなかに痛みが出るなんて、絶対に考えないのである。
思えば、「背骨がズレる」というのは非常におもしろい現象だ。民間療法でしか扱われることがなくても、実際には人の体にいろいろな悪さをしている。私はそういう例をたくさん見てきたのである。
実はその背骨のズレに関して、今回、下田さんの背骨がズレているのを見つけたとき、私のなかで大きな発見があった。
以前、下田さんと同じ大腸がんだった須藤さんが腹痛を起こしたとき、背骨のズレをもどしたら痛みが消えてしまったことがある。そのとき、「背骨って、みんな左にしかズレないんだな~」とボンヤリと考えていた。そして今日の下田さんも、やっぱり背骨は左にズレていたのである。
そこで、かつて私が診てきた人たちひとりひとりを思い出してみた。すると、みんな背骨は左にズレていたのである。私はハッとして、急に目の前が明るくなった。マンガなら、頭の上にパッと電球が灯るところだろう。
だが今回は電球どころじゃない。暗いトンネルから抜け出た瞬間、視界が真っ白になるほどの強い光に目がくらむ。あれに似ている。
もちろん、これからまだまだ大勢の人の体を調べて、例外がないかどうかを確かめてみる必要があるだろう。それでも私の手のなかに残された記憶が、この発見はまちがっていないと教えてくれている。
もし背骨は左にしかズレないものであれば、これまでのズレに対するイメージはガラリと変わってしまう。そもそもなぜ背骨はズレるのか。その原因が全くちがってくるからだ。
今までは、転んだり、どこかにぶつけたりして、体に外から力が加わったことで背骨がズレるのだと思っていた。民間療法家なら、だれもがなんとなくそう思っているだろう。
ところが「背骨は左にしかズレない」となると、外からの力では説明がつかない。外からの作用なら、右にも左にもズレるはずだからだ。それが一方向だけ、しかも左にだけとなると、外からではなく、全くちがう力によって背骨がズレていることになる。
その「全くちがう力」とはいったいなんだろうか。それが特定できれば、これはもう民間療法どころか、医学の領域さえ飛び越えたサイエンスの話になってくる。
「背骨は左にしかズレない」って、もしかしてノーベル賞級の発見かもしれない。そう思ったら、マグマみたいなものがおなかの底からフツフツと湧いてきて、頭のストッパーを吹き飛ばした。そして私の空想は、限りなく宇宙の果てまで広がりつづけていくのだった。(つづく)
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