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皮膚科医の前田先生から紹介された子宮頸がんの荒井さんは、西武線のはずれ近くに住んでいる。お宅があるのは駅からもかなり遠いところなので、とても私のアパートから通える距離ではなかった。
荒井さんは、以前に比べるとものすごく疲れやすくなってはいても、同じ子宮頸がんで亡くなった田口さんに比べると、まだ余力がありそうだ。娘さんといっしょなら、新宿にある前田先生のクリニックまで来るのも、それほど苦にならないらしい。
先生からもOKが出たので、休診の日にクリニックを使わせてもらうことになった。ここなら診察用のベッドもある。しかも美容専門なので、女性向けのおしゃれなサロン風なのも気分がよい。毎回、患者さんの家にうかがって施術している身としては、ありがたい環境だ。
前回、荒井さんに刺激してみたとき、これならいけそうだと感じていた。しかし彼女のがんは、ほぼ末期といってもいい状態なのである。そうかんたんに何とかできるはずもない。本人にも、くれぐれも過度な期待はしないようにと改めてお願いしておいた。
彼女だって、病院ではもう手の施しようがないといわれたがんが、今さら民間療法で何とかなるとは思っていない。しかも私の見た目がコレだ。白いヒゲでも生やした仙人みたいな姿だったら、「ひょっとして」と思うかもしれないが、この貧しいロッカー風の私を見て、さすがにそういう発想にはならない。
私としても期待されないほうが気が楽だ。早速、左の起立筋を刺激してみる。荒井さんに付き添ってきた娘さんが、そばで心配そうに見守るなか、しばらく刺激をつづける。するとほどなくして、荒井さんは刺激に反応して身をよじり始めた。
この痛みが出るまでは、これは単なるマッサージぐらいに感じていたのだろう。それが途中からいきなり痛みに変わったので、私が急に強く押したと思ったらしい。キッとまなじりを上げて、険しい表情で不審がっている。
ところがそばで見ていた娘さんには、私の手の力加減が全く変わっていないのがわかる。それなのに、母親の反応が急変したのを目の当たりにして、えらく驚いている。この変化には、医療のプロとしても興味がわいたようだ。
そうやってしばらく刺激をつづけたところで、私は手を止めた。最初から飛ばしすぎて、疲れさせてもいけないだろう。荒井さんにちょっと休んでもらっている間に、せっかくだから娘さんにも私の刺激を体験してもらうことにした。
荒井さんほどではないが、彼女も左の起立筋が少し盛り上がっている。そこでゆっくりと刺激を加えていくと、荒井さんと同じように痛みに変化していった。相変わらず、私はなでるくらいの力しか使っていない。
今度は、それを横で見ていた荒井さんにも、私が力を強くしたから痛くなったのではないのがわかった。そこでやっとこの施術に納得してくれた。
おもしろいことに、荒井さん親子は見た目は全くタイプがちがう。世の中には双子かと思うほど似た親子もいるが、この二人はとても母と娘には見えない。ところが体の感触や骨の感じは、瓜二つといってよいほどだ。電話の声が似すぎていて、母娘の区別がつかないのと似ている。
娘さんにこの刺激のやり方や開発の経緯を話していくと、彼女は興味津々で、話せば話すほどどんどん前のめりになってきた。それならちょうどいい。施術を覚えてもらえば、荒井さんもおうちで頻繁に刺激してもらえるだろう。
がんに限らないが、施術は間隔を空けずにまめにやるほうが効果的だ。もちろん何か体に変化が起きても、看護師だから対処できるので安心感もある。これはぜひともしっかり覚えてもらおう。
そうだ!他のみんなにも覚えてもらおう。家族がお互いにやったらイイじゃないか。そう思いついたら、何だかすごくワクワクしてきた。(つづく)
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