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ちまたでは「カリスマ」が大ブームである。
「カリスマ美容師」や「カリスマシェフ」ばかりか、「カリスマ治療家」と呼ばれる人までいるようだ。このブームに乗って、テレビ番組や雑誌では、日々カリスマを大量生産中である。

カリスマってそんなにたくさんいるものなのか。本来のカリスマは、超自然的なスーパーパワーをもつ人だったり、人を惹きつける特殊な能力で、国中の人をまどわせたりする人のことらしい。それに比べると、今のカリスマたちは少々小ぶりだ。

なんたって私ごときでも、患者さんから「カリスマ」だの「ゴッドハンド」だのと呼ばれることがあるぐらいだ。どう呼ばれたって本人に実感がないと、いわれるたびにおしりがモゾモゾして居心地が悪い。

そういえば私を「ゴッドハンド」と呼ぶ患者さんの一人に、古い友人で放送作家をしている松井さんという女性がいる。施術をしているときに、彼女の胆のうに3センチほどの石があるのを私が見つけたことがあったのだ。

テレビ業界の仕事だと、どうしても食生活が不規則になるせいで、胆石患者は多い。それにしたって3センチの胆石は特大である。松井さんは体格もいいから、その分だけ石も大きく育ったのだろうか。

この大きさだと、病院で検査を受ければ、「すぐに手術しましょう」という話になるにちがいない。そうなってもあわてないですむように、前もって仕事の段取りをして、入院の準備をしてから検査を受けるようにすすめておいた。するとやっぱり検査後に、そのまま入院して手術することになったらしい。

術後しばらくして会ったとき、担当医から「手術の記念に」といって渡されたという胆石を見せてもらったら、それはそれは立派な石だった。これがダイヤだったら何カラットになるだろう。

「石といってもネ、胆石はダイヤとかの宝石とちがってすごく軟らかいから、こんなに大きくても指輪とかに加工したりはできないんだヨ」

そう伝えると松井さんは「残念だわ~」といいながら、入院生活で少しだけ小さくなったおなかをゆすって、ガッハッハと笑った。

この一件以来、松井さんは私のことを「ゴッドハンド」と呼ぶようになって、懇意にしているタレントさんたちが不調になるたびに、私の治療院を推薦してくれるようになっていた。

実はこれには彼女なりの考えがあったようだ。テレビの情報番組では、「タレントが通う〇〇」というのが紹介のパターンになっている。そこでうちの治療院にもこの冠をつけて、いずれ番組で紹介しようと思っていたようだ。

どうやら松井さんは、日ごろの私の貧しそうな暮らしぶりを見かねて、私の宣伝になればと考えてくれていたらしい。そんな彼女の思いなんか知らない私は、突然の電話で、「ねぇ、私の番組に出ない?」といわれてひどく面食らった。

松井さんは業界ではかなりのやり手である。私がテレビの特殊美術の仕事をしていたころから、彼女は人気番組をいくつも手がけていた。次から次へと番組をヒットさせるだけでなく、番組のなかから人気タレントも誕生させていた。

私のアパートの近くでも、彼女の番組から火がついた有名タレントが、白亜の豪邸を建ててバラに囲まれて暮らしている。彼だって、松井さんがプッシュしていなければ、とうていあんな暮らしはできていないはずだ。

テレビ出演!
これは願ってもないチャンスである。ひょっとしたらこの出演で、私が発見したあの左起立筋の異常を、テレビで大々的に発表できるかもしれない。そうなれば、この現象を一気に日本中に広めることができるじゃないか。

もしこれで有名になったら、私も豪邸暮らしができるんだろうか。タレントになりたいなんて考えたこともなかったけど、サインの練習もしなくちゃいけないかな。電話を握ったまま、私の妄想はあらぬ方向へと走り出していた。

ところが電話口の松井さんは、「でね、今回は文化人枠で出てもらうから、出演料は1万5千円ヨ~」と軽くいってのけた。その一言で我に返って、現実に引き戻された。

マ、そりゃそうだよね。それじゃ豪邸どころか、しばらくは安アパート暮らしがつづきそうだな。イヤイヤ、今はそんなことはどうでもいい。テレビで発言さえできれば、きっと何かが大きく変わるはずだ。

松井さんからの電話を切ったあとも、期待で胸が高鳴る。何から伝えようか。あれこれ考えているうちに、夢は果てしなく広がって、私の目の前はバラ色に輝いてくるのだった。(つづく)

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