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タッタラッタラッタタ、ラッタタッタ、タッタラ~♪
 タッタラッタ、ラッタタッタ、ラッタタ、タタ~ララ~~ッ♪♪

目の前に立っているドラえもんが、私に向かって何かいった。「ナニ?」と聞き返そうとしたところで目が覚めた。

枕の向こうで、携帯電話がピコピコ光っている。そうだ。寝る前に、着メロを音がいちばんよく響く「ドラえもん」に替えたんだった。時計を見ると午前1時。知らない番号からだ。なんだろう、こんな夜中に。でも早く出なくちゃ。

「はい」
「だ、男性パラダイスですか?」
「え、ちがいます」
「男性パラダイスじゃないんですか?」
「ちがいますヨッ」

プピッ。電話が切れた。一瞬のことで頭が混乱する。

私はいつでも、携帯電話を手の届くところに置いている。移動中でも聞こえるように、着信音は最大音量だ。施術予約の電話を取り逃がさないために、1コールで出るように努力しているのである。

しかし今日はいつもよりぐっすり眠り込んでいたのか、気づくのが遅れてしまった。このアパートは壁が薄いから、こりゃ、となりの東大生くんを起こしちゃっただろうな。申し訳ない。

自慢じゃないが、「電話が鳴っている」と思ったら、となりの部屋の電話だったとか、壁の向こうから受話器を置く「カチャ」という音が聞こえてきたなんてこともある。

それにしても、男性パラダイスっていったい何なんだ?そんなことを考え出したら、寝られなくなってしまった。全くもって深夜の電話ほど迷惑なものはない。

ところが今日もまた、ちょうど睡眠が深まったと思ったら電話が鳴った。二晩連続だ。ツイてない。表示を見ると患者さんからだ。午前2時を過ぎているけれど、こんな時刻に電話してくるのは、よほどのことだから仕方がない。

電話の主は、まだ20代の美々子さんだった。寝ているときに、いきなり心臓が早鐘のように打ち始めたらしい。初めてのことなのでおどろいて飛び起きたが、不安になって私に電話をかけてきたのだ。

深く眠り込んでいるときの電話の音は特に大きい。ビックリしたせいで、私の心臓もドキドキドキと鳴っている。しかし私の胸の高鳴りと、美々子さんの動悸はちがう。彼女の症状は明らかに狭心症のパターンだ。

かといって、電話では何もできないから、症状がひどくなるようなら救急車を呼ぶようにと伝えておいた。幸い悪化はしなかったようだが、次の日に病院で検査を受けても、昨晩の心臓の異常は原因がわからなかった。

病院で「問題ない」と診断された美々子さんは、「やっぱり心配だから」と私のところへ相談にやってきた。彼女が部屋に入ってくるなり、私は思わず「アッ」と声が出た。鎖骨のくぼみが、みごとに消えてしまっているのである。

私は患者さんに会うと、真っ先に首元に目が行く。胸鎖乳突筋(首の前側にある筋)の左右のちがい、甲状腺の腫れ具合、そして鎖骨のくぼみの有無を見るだけで、今の体の状態がかなり把握できるからだ。

美々子さんはもともとポッチャリ型ではあるけれど、前に会ったときにはまちがいなく鎖骨のくぼみがあった。それが今日の彼女は、左側のくぼみがなくなっているどころか、逆に盛り上がってしまっている。何があったのだろう。

一般的に考えられるのは、急に甲状腺が異常になるパターンである。しかし美々子さんの場合は明らかにちがう。甲状腺の異常ではない。私がそう判断できるのは、今日の彼女は、あごが前に突き出ていたからである。

実は甲状腺が腫れると、あごはうしろに行こうとする。あごが前に出るのは、首のいちばん下の骨(第7頚椎)がズレているときに起きる現象なのだ。

すぐに彼女のうしろに回って首の骨を調べてみると、やはり第7頚椎が大きくズレていた。彼女の心臓の不調もコイツが犯人のようだ。

「最近、左の肩や腕に痛みとかしびれとかなかった?」
「そうそう、そうなのよ!どうしてそんなことまでわかるの!?」
「首のいちばん下の骨がズレると、そういう症状が出るんだよね」

別に美々子さんだけではない。第7頚椎がズレると、左の腕神経が圧迫されて、左の肩や腕に痛みやしびれが出ることが多い。ただし、これは心筋梗塞の症状とも、混同しやすいので要注意である。

それだけではない。第7頚椎がズレると、左の鎖骨の下にあるリンパ液の流れ口をせき止める形になる。すると周辺が腫れてきて、鎖骨のくぼみが消えてしまうのだ。

しかも鎖骨のくぼみの下には、心臓の働きを調整する心臓神経が通っている。その大事な神経を、リンパの腫れが圧迫して、心臓に狭心症のような症状を引き起こしていたのである。

美々子さんも、ズレと症状の因果関係がはっきりしたので、あとはズレをもどせばいいだけだ。彼女の大きくズレている第7頚椎に指を当て、正しい位置までゆっくりともどしていく。

よ~し、これでもどった。そう思った瞬間、美々子さんの全身から汗が吹き出して、風呂上がりみたいに顔が赤くなった。これも背骨のズレをもどしたときによく起きる現象だ。

背骨がズレると、微妙に血管が圧迫されることが多い。そのズレを矯正すると、血管が圧迫から開放されて、血流が急によくなるのである。

この血流の回復と同時に、美々子さんの鎖骨のくぼみからは腫れが引いていった。そしてみるみるうちに、以前のようにくぼみが復活した。

試しに頭をうしろに倒してもらうと、スムーズに倒れる。第7頚椎がズレていると、首がうしろに倒れにくくなるのも特徴で、無意識にバランスを取ろうとして、あごを突き出すポーズになるのである。

さて、肝心の心臓の症状はどうなっただろうか。矯正して以来、美々子さんから夜中の電話はかかってこない。きっともう心配ないだろう。もちろん例の男性パラダイスへの電話もない。これで私も、しばらくは安眠できそうだ。(つづく)

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