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「センセ~ッ、ここんとこ3か月も生理がないんですゥ」
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「センセ~ッ、ここんとこ3か月も生理がないんですゥ」
久々に来院した栄子さんは、私を見るなりそういった。
彼女は以前、腰痛と生理不順の治療のために来院していた。ところが半年ほど前に結婚してからは、症状が出なくなっていたのである。しかし今日の深刻そうな栄子さんの表情を見て、私もつい、何かたいへんな病気にでもなったのかと身構えた。
だが私の記憶をたどると、彼女の体に、それほどとんでもない病気が急に現れるとは思えなかった。どっちにしても、体を調べてみなくちゃわからない。
まずは脈をチェックする。手首にそっと触れると、なんだか柔らかい。半年前はもっと手が硬かったはずだ。そうだ。生理がないというのだから、おなかを調べてみよう。栄子さんに横になってもらって、おなかに軽く手を当ててみる。子宮の上あたりが妙にふっくらしている。
「エッこれって!」
これと同じ感触の人を、私は今までに何人も知っている。
「栄子さん、妊娠してない?」
そうたずねると彼女はハッとした。どうやら思い当たるフシがあるらしい。深刻そうな表情が、おどろきと喜びの表情に変わった。彼女は2、3か月生理がないことがたびたびあったので、今回もいつもの生理不順だと思っていたのだ。
女性の体は、妊娠すると極端に変わる。体の表面が、柔らかいクッションで覆われたみたいになる。ふんわりとした真綿よりも、もっとずっと柔らかいその感触は、他にはない独特なものなのである。
こんな変化が男性の体に起こることはないから、きっと女性ホルモンの影響なのだろう。ところがふしぎなことに、これほど体が変化していても、妊娠していることに気づかない女性も案外多いのである。
さて、栄子さんが妊娠しているかもしれないとなると、もう私は手が出せない。私の施術は「安全第一がモットー」なので、妊娠中の人には一切、触れないようにしている。万が一にでも、施術のあとで何か不都合なことが起きたら、取り返しがつかないからだ。
栄子さんには、病院で妊娠の検査を受けてもらうことにした。するとやっぱり、すでに妊娠3か月だったらしい。結果を聞いたその場で電話をかけてきて、うれしそうに「センセイのおかげで妊娠できました!」といってくれた。
聞き方によっては誤解されそうだが、実は「私の施術のおかげで妊娠できた」といって報告してくれたのは、栄子さんが初めてではない。
病院でずっと不妊治療を受けてもダメだったのに、腰痛で私のところに通い始めたとたん、妊娠した人は何人もいた。婦人科のトラブルには、背骨のズレが関係していることがあるから、ズレていれば妊娠しにくいものなのだろう。
逆に背骨がズレていない人は妊娠しやすいし、出産や授乳にも問題が起きにくいようだ。昔からの知り合いの恵美さんは、その典型だった。
彼女は健康体の代表のような人で、背骨がズレるようなことは全くなくて、生理痛も生理不順も経験したことがなかった。
そんな彼女だから、結婚したと思ったらすぐに妊娠した。経過もすこぶる順調で、いよいよ予定日がやって来た。しかし陣痛らしきものがない。何も変化がないけれど、「ま、念のため」ぐらいの気持ちで、彼女はとりあえず病院に行った。
産婦人科というのは、スタッフたちにとっても戦場のように忙しい。まだ何の変化もなくて平気な顔をしている恵美さんは、当然のように後回しにされた。彼女も気長に診察の順番が来るのを待っていた。
ところがおなかの下のほうにわずかに違和感がして、「アラッ」と思ったら、恵美さんの股間で「ギャーッ」と泣き声がした。何の前触れもなく、いきなり子どもが生まれてしまったのである。
あまりにも突然のことだったので、本人だけでなくお医者さんたちも大慌てだ。みな口をそろえて、「こんな人は今まで見たことがない!」といっておどろいた。
彼女だって、出産の痛みや苦しみを覚悟していただけに、拍子抜けしていた。とはいえ安産中の安産で、母子ともに健康となれば、まことにおめでたいことである。
それ以来、恵美さんの友人たちが妊娠すると、彼女におなかをなでてもらいにやってくるようになった。
「アタシって、安産祈願のイヌ印の扱いなのかしらね~」
そういって彼女は、「アッハッハ」と明るく笑うのだった。(つづく)
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