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「先生は霊が見えるんですか?」
こんなことを、私は患者さんからよく聞かれる。最初のうちは、何のことかとおどろいた。どうやら、病院でも治らなかった症状が、私が指先でちょっと触れただけで消えてしまうので、何かふしぎな力をもった霊能者か何かだと思うようだ。
もちろん私は霊能者ではないし、霊なんか一度も見たことがない。多分、私だけでなく、ほとんどの人は見たことがないはずだ。それでも、霊を信じている人はかなりの数になるだろう。
私だって霊やあの世の存在は否定しない。それどころか、この世だけが全てだなんて、これっぽっちも思っていない。主従でいえば、あの世のほうが主じゃないかとすら思っている。
しかし施術するときには、霊や魂のことは一切持ち出さない。あくまでも、この世の肉体だけをターゲットにしている。施術であの世的なものまで持ち出すと、話がややこしくなるし、体の不調は肉体へのアプローチだけで、ほぼ解決するからだ。
ところが患者さんのなかには、霊の姿が見えるという人が何人もいた。ある女性は、霊だけでなく前世のことまでわかるそうで、私を霊視すると、前世でも施術をしていた姿が見えるといっていた。
私の手のひらから、ナントカカントカのパワーが出ているのが見える。そんなことをいう人もいた。どちらにしても私には全くピンとこない。そういう話にもあんまり興味はない。
しかしあるとき、非常にリアリティのある話をしてくれた人がいた。彼女はその昔、鑑真といっしょに日本に渡ってきたときの記憶があるというのだ。
当時は男性だった彼女は、日本みたいな辺鄙(へんぴ)な所になど行きたくなかったけれど、鑑真様から「どうしても」と頼まれたので、しぶしぶついてきた。
命がけの船旅の末、やっとの思いで日本の港にたどり着いたら、都へ向かう道中、道ばたのいたる所に死体が打ち捨てられていた。それがものすごく気味悪かった。そんな話を、彼女は眉間にしわを寄せながら、昨日のことのように話してくれたのである。
「鑑真」と聞いて、私は思わず身を乗り出した。私は以前から、唐招提寺の「鑑真和上像」には強い関心があったのだ。実は、あの鑑真像の顔には、はっきりと「アシンメトリー現象」の特徴が表現されているのである。
「鑑真和上像」の顔はあまりにもリアルなので、肖像彫刻の名作としても名高い。だが私は、これは鑑真の死体から型取りした、デスマスクではないかと考えた。しかし専門の研究者は、だれもそんなことはいっていない。
それなら、ぜひ自分の目で確かめてみたい。そう思っても、私のような一般人が、国宝を手に取って調べられるはずもないので、あきらめていた。
ところが今、私の目の前には、実際に鑑真のそばにいた人がいるのだ。彼女から話を聞けば、何かわかるかもしれない。どんなにえらい歴史学者だって、当時のことを直接見聞きした人などいないのだから、新事実を探り出せるかもしれない。
私はさらに前のめりになって、鑑真の話をあれこれと聞かせてもらった。聞けば聞くほど、彼女の話は真実味が増してきた。私は期待で胸が高鳴るのを感じながら、いよいよ私がもっとも聞きたかった、鑑真像が制作された経緯をたずねてみたのである。
すると彼女は、
「あ~、あのときの私は鑑真様よりも先に死んじゃったので、あとのことは何もわからないんです」
と申し訳なさそうにいったのだった。(つづく)
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