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「センセ~、これ読む~?」
そういって、患者さんが科学雑誌を置いていってくれた。休み時間にパラパラめくっていると、天文学者のコペルニクスの顔が載っていた。
「エッこれって!?」私はその顔に目が釘付けになった。
彼の生きた16世紀にはカメラなどない。だからこれはコペルニクス本人を撮った写真ではない。そこにあったのは、彼の遺骨から復元された、精巧なイラストだったのだ。
骨から復元といえば法医学だろうが、ふつうに暮らしていたら法医学などとは縁がない。もっぱら海外のドラマで見るだけだ。
身元不明の遺骨が発見されると、さっそうと現れた法医学者が、その骨から生前の顔を復元し、死因や凶器まで特定して殺人事件を見事解決!そんなシーンがおなじみだ。今の法医学の技術は、それほど正確なのだろうか。
もちろん私には、このコペルニクスの復元イラストが正確かどうかはわからない。私がおどろいたのは、彼の顔に「アシンメトリー現象」の特徴が、はっきりと現れていたからだ。
彼の左目は明らかに右よりも小さい。しかも左目の眼球が上がって、上目づかいになっている点まで再現されている。細い鼻筋は大きく左に曲がり、口角も左が上がっている。
それだけではない。頭の骨だけで復元したはずなのに、彼の左肩は見事に右よりも上がっているのである。「アシンメトリー現象」の説明画像としては、ほぼ満点の出来栄えだ。
それにしても、頭の骨だけから、どうしてここまで完璧に「アシンメトリー現象」の特徴を復元できるのだろう。私は、元になった頭の骨と、復元された顔をじっくりと見比べてみた。すると次第にそのしくみが見えてきた。
コペルニクスの頭の骨は、左半分が若干つぶれたように変形している。そして目、鼻、口の部分の変形が、それぞれ「アシンメトリー現象」の特徴になっているようだ。
「フーン、なるほどね。骨がこういう風に変形すると、顔の形がこうなるのか。おもしろいじゃないか」
クルリとイスを回した私は、部屋のすみに吊ってある、骨格標本のジェームスくんに目が行った。
彼は身長180センチほどで、若いドイツ人だったようだ。うちに来たときからジェームスくんと呼んでいるけれど、ドイツから来たならヤーコプくんとかにするべきだったのかもしれない。
それはさておき、私は前から、彼の骨格が左右で非対称なのが気になっていた。でも、ヒトの骨の形なんてじっくり見たことがなかったから、「こんなものか」と思いこんでいたのだ。
ところが彼の骨は、コペルニクスの遺骨と同じように変形している。そうなると、生前のジェームスくんも、左目が小さくて鼻が左に折れ曲がり、左の口角が上がっていたのだろうか。
それだけではない。彼の背骨の一つ一つが、24個すべて非対称な形をしているのだ。私はこれが最も気になる点だった。ひょっとしたらこの変形は、「アシンメトリー現象」の最大の特徴である、左の脊柱起立筋が盛り上がっていたことの証明なのかもしれない。
少なくとも、本来であれば対称に使われるはずの背中の筋肉に、左右で片寄りがあったことはまちがいない。ここまで骨が変形していたら、ジェームスくんの体には、子どものころから「アシンメトリー現象」があったのではないか。
彼の骨は太くて立派なのに、なぜ若くして亡くなってしまったのだろう。同じ特徴をもつコペルニクスは70歳まで生きたというのに、この2人の寿命のちがいは一体何だろう。
コペルニクスには、いつからこれほどの「アシンメトリー現象」が現れるようになったのか。その原因は何だったのか。私のなかで、次から次へと新たな疑問が湧き上がってくるのだった。(つづく)
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