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「ムニエル病って?」

今日初めて来院された山田さんが、問診票に記入した「ムニエル病」という文字を見た瞬間、私の耳には「ウッシッシ」という声が聞こえてきた。

あれは私がまだ中学生のころ、イレブンPM(ピーエム)という人気番組があった。司会は当時大活躍していた大橋巨泉である。なかでも釣り情報のコーナー「イレブンフィッシング」は、私の大のお気に入りだった。

そこでは釣れた魚について、巨泉さんが「これはムニエルにして食べるとウマイ」と、盛んにムニエルを連呼していた。

魚といえば煮付けか塩焼きの時代に、ムニエルにして食べるだなんて、だれも知らなかったから、中学生の私にとって、ムニエルは何とも都会的でシャレた響きだったのだ。

問診票にクッキリと書かれた「ムニエル病」という文字を見て、そんな昔の記憶がよみがえって胸が熱くなった。もちろん彼女が書きたかったのは、「ムニエル病」ではない。「メニエル氏病」のことである。

こういうまちがいはよくあるし、私だってよくまちがえる。病名というのは漢字だらけだったり、聞いたこともないカタカナの羅列だったりするから、2、3回聞いたくらいでは覚えられなくて当然だ。

つづけて問診票を見ていくと、その下には「540円」と書かれている。「はて?何の金額だろう」。受診料だろうか。

そうか。問診票の「受診科」の項目が「受診料」に見えたのだナ。まあ、メニエル氏病なら耳鼻科だろうから、この程度のことはわざわざ本人に確認するまでもない。

70代の山田さんは、朝起きたら突然天井がグルグルと回り出して、立ち上がれなくなった。そのまま1日横になっていたら、次の日は少し良くなったので、近所の病院に行った。

そこでメニエル氏病だと診断され、医師からは、「ステロイドの集中投与をしましょう」といわれたそうだ。

ところが彼女は、ステロイドに対して強い恐怖感があったので、怖くなって治療を受けずにそのまま帰ってきてしまった。その話を友だちに相談したら、私のところに行ってみるといいとすすめられたのである。

近ごろは、なぜだかメニエル氏病だと診断される人が多い。メニエル氏病は、山田さんみたいに、突然グルグルと目が回る目まいや、耳鳴り、吐き気などの症状が起きる。

しかし医学的には、まだハッキリとした原因はわかっていない。そのため対症療法として、ステロイドの投与か、酔い止めの薬を使う程度の治療法しかないようだ。

だが病院で検査を受けて、メニエル氏病だと診断された人たちの首を見てみると、頚椎(けいつい:首の骨)の1番目と2番目が左にズレている人が多い。

これらがズレると、脳に向かう重要な血管が圧迫されて、血流が悪くなる。すると目まいや耳鳴りなどの症状が出ることがあるのだ。

今回の山田さんも、頚椎の2番目が大きく左にズレていた。これが症状の原因なのだろう。しかし山田さんは私の矯正を受けるのが初めてなので、用心して、ごくごく弱い力でそっと矯正してみた。

「どうですか?」と聞いてみると、「ちょっといいような気がします」程度の変化らしい。それなら、もう少しだけ進めてみたいところである。

だが首の骨を矯正すると、脳への血流は急激に変化するものなので、初回での深追いは禁物だ。今日のところはがまんして、しばらく様子をみてもらうことにした。

翌朝、山田さんから元気な声で電話がかかってきた。

「今朝はすごく調子がイイの!」

昨日までは頭にモヤがかかっていたのに、今はスッキリしている。そういって喜んでいる。しかも朝からひどくおなかが空いてたので、試しにサバでムニエルを作って食べてみたらしい。

来院時に、私の説明でムニエルがメニエルだったと気がついてから、逆にムニエルなるものが気になっていたらしい。山田さんは、初めて作ってみたサバのムニエルが思いのほかおいしかったので、テンションが上がっている。

たしかに、頚椎2番(首の上から2番目の骨)がズレると、血管だけでなく胃に向かう神経も圧迫してしまう。そのせいで、吐き気や胃もたれを感じる人も少なくない。だからズレていた骨が定位置にもどった途端、胃が働き出して、おなかがグーッと鳴ることもある。

山田さんも、朝からムニエルをおいしく食べられるくらいなら、メニエルもすっかり治ったのだろう。それは本当によかったよかった。ウッシッシ。(つづく)

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