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この前、お寺の住職に馬乗りになって施術しているのを見られて、とんでもないかんちがいをされてしまった。しかし患者に馬乗りになっているのを見てかんちがいするのは、実は人間だけではない。
私が施術にうかがうお宅では、ペットを飼っていることが多い。私はネコは好きだが、イヌはなんとなく苦手だ。それなのに私の顔を見たイヌは、荒い呼吸とともにかけ寄って来たかと思うと、やたらとペロペロと顔をなめたがる。
いくら親愛の表現だとはいっても、さっきまで自分のお尻をなめていたのを私は知っている。ところが彼らは私がいくらイヤがろうと、ますます私に顔を近づけてくるのだ。
特に、飼い主への施術が終わると、イヌの興奮は一気にエスカレートする。どうやら、自分のご主人様の背中に馬乗りになっている姿が、彼らからすれば私がマウントを取ったように見えるらしい。
自分のご主人様よりも上位の存在なら、何が何でも私のご機嫌を取らねばならない。だから必死なのである。ところがイヌのそんな態度は、飼い主にとってはあまり気持ちのイイものではない。おもしろくないので、私に向ける目線に影が宿る。これはもう、とんだ三角関係の勃発なのだった。
それはそうと、ペットのいる家に行くと、ついでにペットも診てほしいと頼まれることがある。確かにイヌやネコのような哺乳類は、体の構造がヒトと大して変わりがない。体の不調の原因にも大きなちがいはないから、施術の対象にはなりうる。
人間のお医者さんが書いた腰痛本には、必ずといっていいほど「腰痛は人類が二足歩行になって以来の宿命だ」というフレーズが登場する。しかし腰痛は人間だけの特権ではない。イヌやウマなどの四足歩行の動物でも、腰痛になることは今や常識なのである。
ただし彼らは人間とちがって、「腰が痛い」などとはいわない。ただ腰を片側に曲げて、歩きづらそうにしていたり、しっぽを引きつらせたりしているだけである。
ある家でも、大事に飼っているダックスフンドが腰痛になったことがある。赤茶色をしているからアカという名前のこのイヌは、家族の話では、しばらく前から歩き方がおかしくなっていた。
そこで私がアカの背骨を調べてみると、予想通り、腰の骨がクキッとクランク状に曲がっている。背骨がしっかりズレているのである。だがそれさえわかれば話は早い。ズレている骨を元の位置にゆっくりともどしてやる。アカも神妙な顔つきでじっとしている。
何度か指先で背骨をなぞってはズレをもどす。すると、さっきまでのクランクはなくなった。背骨がまっすぐになったのを確かめて、ヨシ、これなら大丈夫。そう思って見ていると、アカはしっぽをプルプルと左右に動かした。そして以前のように元気よく歩き出す。やっぱりアカの不調の原因は、背骨のズレだったのだ。
これが人間なら、プラセボ効果だとも考えられる。たとえば同じ薬でも、白衣を着たお医者さんから渡されるのと、近所のおじさんがくれるのとではその効果にちがいが出る。それがプラセボ効果である。
薬の効果の3割はプラセボだというデータもあるようだし、同じお医者さんでも、白衣を着ているか着ていないかで薬の効果にちがいが出るそうだから、プラセボはあなどれないのである。
しかし動物が相手ではプラセボ効果は通用しない。私の施術にしても、人間はお愛想で「よくなりました」といってくれている可能性はある。だからこそ施術に対する動物の反応は、ある意味、人間以上に興味深いのだ。(つづく)
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