小説『ザ・民間療法』花山水清

人体の「アシンメトリ現象」を発見し、モルフォセラピー(R)を考案した美術家<花山水清>が、自身の体験をもとに業界のタブーに挑む! 美術家Mは人体の特殊な現象を発見!その意味を知って震撼した彼がとった行動とは・・・。人類史に残る新発見の軌跡とともに、世界の民間療法と医療の実像に迫る! 1話3分読み切り。クスッと笑えていつの間にか業界通になる!

タグ:メールマガジン

「よし、今日は肉野菜炒めにしよう」

そう決めて、私はいつもの定食屋へ向かった。

ふだんの私は自炊派である。好きなものを好きなだけ食べられるからだ。もちろん経済的な理由も大きい。とはいっても外出の予定が立て込んでいると、家まで食べに帰る余裕がない。そんなときに寄るのが、これから行く店だ。

L字型のカウンターに8席、テーブル席が3つなので20人で満員だが、そんなに客が入っているのは見たことがない。いつ行っても空いている。

カウンターの向こうでは、ごま塩頭のオヤジさんが油まみれになって調理している。配膳係は奥さんだろうか。二人してみごとに愛想がない。それが私には妙に落ち着く。

「ニク野菜炒め、お願いネ~ッ」

今日はいちばん安い野菜炒めじゃない。なぜだか気分は肉野菜炒めなのである。「ニク」に力を入れて注文すると、私はいつもの席に座った。ここからはテレビがよく見える。

お、ニモさんだ。ちょうど、人気司会者ニモさんのワイドショーが始まったところだった。私は昔、他局でこの人の番組に関わったことがある。

当時の彼は大酒呑みで、毎回スタジオ中に酒くさい息をまき散らしていた。そんなニオイなんかテレビからは伝わらないから、視聴者には関係ない。あのニモさんが、今や健康情報の伝道師になっているのは皮肉な気もする。

「〇〇を食べれば、△□病に効くッ!」

彼が一言そういうだけで、たちまちその商品がスーパーの店頭から消えてしまうのだ。ニモさんの番組は、社会現象を巻き起こす存在にまでなっていた。

以前なら、テレビの健康情報といえば、白衣を着たお医者さんがまじめな顔をして説明するだけだった。しかし今では、健康の話題はグルメや旅と同列の扱いだ。それをニモさんが、さらに立派なエンターテイメントに仕上げたのである。

こういう傾向ってどうなんだろう。疑問に思わないでもない。でも今どきの視聴者は、健康の話は買い物情報とセットになってないとダメらしい。何かを買うことで健康になると信じているなら、私がなげいたって始まらない。

実はこの番組に、私の患者さんである耳鼻科の五木先生も出演したことがあった。鼻炎だか何かの話を、専門家として説明することになったらしい。

五木先生は耳鼻科の学会では立場のある人だ。その一方、気さくで少々目立ちたがり屋でもあったから、これまで何度もテレビに出演していた。

ところが今回は、いつものようにディレクターと打ち合わせしていると、「先生、〇〇を食べればかんたんに鼻炎が治るといってもらえませんか」と頼まれた。

先生としては、「そんなもんで治ってたら、オレら医者なんか要らんでしょう」といって、いったんは断ったらしい。

しかしテレビにはふしぎな魔力がある。ディレクターから、何度も何度も頼まれているうちに、さすがの先生も、まぁ〇〇なら体に悪いモノでもないし、と思い始めた。そうして結局、本番ではディレクターの指示通りのセリフを吐いてしまった。

あとはニモさんが、「奥さ~ん、聞きました~?」といって魔法の言葉をパパッとふりかけるだけで、身近な食品があっという間に鼻炎の特効薬に早変わりだ。やっぱりその日も、番組を見た人はわれ先にとスーパーに押し寄せたのだった。

定食屋でそんなことを思い出していたら、ふとひらめいた。そうだ!肉野菜炒めなんか食べている場合じゃない。ニモさんのこの手を使わなければッ。

私は再三、杉本さんからメールマガジンの文章がカタすぎるといわれていたのだ。そういわれても、医学情報を正確に伝えようとすると、どうしてもかたくなってしまう。

ましてテーマが「がんの前兆」なのだから、あまりふざけたことも書けないと思っていた。だが「がんの前兆」を伝えることで、読者の未来を明るくすることだってできるはずじゃないか。そこを強調してみよう。

早速、定食屋のテーブルにレポート用紙を広げると、これまで書いてきたメルマガの原稿を、ニモさん風のトーンに変えてみた。これならイケそうだ。

何度か書き直して清書してから、意気揚々と杉本さんに見せる。すると彼女も、「これなら」と大きくうなずいてくれた。

肉野菜炒めのおかげで、イヤ、ニモさんのおかげでメルマガの方向性が決まった。これでようやく創刊号の準備も完了だ。私はホッと胸をなでおろして、まだ見ぬ読者からの反響に期待するのだった。(つづく)

*小説『ザ・民間療法』全目次を見る
*応援クリックもよろしくお願いいたします!
にほんブログ村 小説ブログ 実験小説へ
にほんブログ村

長編小説ランキング

FC2ブログランキング
    このエントリーをはてなブックマークに追加

*小説『ザ・民間療法』全目次を見る
118
どうにかこうにか私の初めての勉強会が終わった。

出だし好調とはいえないが、それでも何とか船出はできた。こうやって地道に浸透させていけば、民間療法界だけに留まらず、いずれは医学界、そして全世界へと広がっていくはずだ。今はいわば草の根活動中なのだと思うと、この勉強会の存在が私の希望のともしびになった。

実は私には、もう一つ光が差し込んでいた。以前からの理解者である杉本さんが、強力な助っ人として急浮上したのである。

初めて会ったころの彼女は、まだ30歳になったばかりだったと思う。私が人体に規則性のある異常な現象を発見したといったら、すぐさま「天才だ!」といっておどろいてくれたのだ。逆に私は、彼女の理解の早さにおどろいた。

たいていの人は、私がいくら熱をこめて話しても、キョトンとするばかりで全く興味など示さない。人体の専門家といわれる人でも、彼らの反応は一般の人と似たりよったりだった。ところがごくまれに、杉本さんみたいにこの重要性を即座に理解してくれる人がいる。

そういう人は、話のほんの触りを聞いただけで、いきなり核心の部分までわかってしまうものらしい。なかには「それってノーベル賞級の発見ですよね」といってくれる人までいた。

杉本さんにこの話をしてから、もう5、6年がすぎただろうか。最近改めて、これまでに発見した内容や、異常な現象の解消法まで開発できたことを話す機会があった。すると彼女の口からも、「これはノーベル賞が2つ獲れますね」という言葉が出た。

そして、この話をまだどこにも発表していないのを知ると、彼女のなかで何かのスイッチが入ったようだ。目をカッと見開いたかと思うと、「本にして出しましょう!その前にまずはメルマガで発表しましょう!」と強い口調でいったのだ。

メールマガジンといえば、近ごろ話題の情報媒体である。小泉首相までメルマガを出した影響で、インターネットの世界など全くわからない私でも、その存在だけは知っていた。

しかしパソコンもないし、メールすらやったことのない私には、メルマガの発行などハードルが高すぎる。ところが彼女にはそんなことはお見通しらしい。「先生の頭のなかにあることを、いちど全部書き出してください。あとは私がやりますからッ」といってくれた。

彼女はずっとインターネットを使って仕事をしてきたから、メルマガの発行なんてお安い御用だというのだ。ホッソリとした見た目とちがって、彼女にはどこか野武士のような雰囲気があって、実に頼もしい。

もちろん、メルマガ発行の大まかな仕組みについては説明してもらった。だが、彼女はえらく早口だし、知らない用語ばかりでチンプンカンプンだ。ただし私がやることは原稿を書くだけである。文字通り、紙に鉛筆で書いてわたすだけでいいそうだ。

私は女性から強い口調でいわれると、すなおに従う傾向が強い。これは、母の命令に忠実に従う父の背中を見て育ったせいである。それで苦労することもあるけれど、杉本さんからの提案は私にとっては渡りに船だった。

そうと決まったら早速原稿だ。のんびりしているように見えて、私はスピード主義である。拙速を旨としているので仕事は早い。一晩でいくつか原稿を書き上げると、意気揚々と杉本さんにわたした。

「早いですね~」といって笑いながら原稿を受け取ると、彼女は早速読み始める。その途端、スッと笑顔が消えた。上から下まで何度か読むうちに、次第に表情が険しくなってくる。その様子はいよいよ野武士である。むずかしかっただろうか。私はバッサリ斬られる覚悟で、ドキドキしながら感想を待った。

しばらくして「うん」と一つ息を吐いてから、やっと杉本さんが口を開いた。彼女のいうには、内容どうこうよりも、文体が古くて硬いせいで読みにくいらしい。

杉本さん本人は本ばかり読んできたというだけあって、漢文チックな私の文章でも読める。しかしメルマガとして出すからには、医学のことなど全く知らない人が、おもしろく読んでくれなければ始まらないのだ。

そこで、メインの私の理論は硬めでも仕方がないが、それとは別に、キャッチーな健康情報コーナーをはさむことで、興味をもってもらうことに決まった。あと問題なのは題名だ。

メルマガというのは、創刊号のランキング次第でその後の購読者数が跳ね上がるものらしい。ところがその創刊号を読んでもらうには、題名と数行の紹介文を見ただけの段階で、先に購読の申し込みをしてもらう必要がある。それならいよいよしっかり考えてから決めないといけないだろう。

何日か考えていたら、ふと「がんの前兆」というキーワードが浮かんだ。私がこれほど理論の普及に熱心なのも、別に売名や営業のためではない。私が発見した人体の左側だけに現れる異常が、「がんの前兆」ではないかと感じているからだ。

医学的に「がんの前兆」だといわれている現象はいくつかある。たとえば便秘と下痢をくり返すとか、便に血が付着しているといったことだが、私から見れば、それは「がんの前兆」ではない。がんの初期症状なのである。

つまりこれまで「がんの前兆」だといわれてきた現象は、それが見つかった時点で、すでにがんは体内で十分に成長してしまっている。

一方、私が見つけた左の起立筋の盛り上がりや、左半身が鈍くなる現象は、健康診断の結果では健康なはずの人の体にも、多かれ少なかれ見られる。しかしがん患者の体では、その度合いが極端なのである。それならば、この現象を「がんの前兆」と捉えてもいいはずだ。

もちろんこんなことを発表したら、地震や火山爆発の予言みたいに、人々に強い不安を与える可能性もある。しかし注目すらされないようでは、お話にならない。今は、この現象の存在を広く知ってもらうことのほうが、何よりも重要なのである。

たくさんの人が、自分の目で自分の体で確かめてくれれば、それだけで問題提起になる。前兆の段階なら、まだそこから対処のしようもあるはずだ。

これまでお医者さんたちにいくら訴えても、全く聞く耳をもってもらえなかったのだから、私から発表するしかない。たとえそれで集中砲火を浴びようとも、やって後悔するより、やらずに後悔するほうがつらいというじゃないか。

反響が怖くないといえばウソになるが、野武士・杉本さんだって、「私が盾になりますッ」とまでいってくれているのだ。さすがに私も、これはもう「がんの前兆」を前面に出して行くしかないッと腹をくくったのだった。(つづく)

*小説『ザ・民間療法』全目次を見る
*応援クリックもよろしくお願いいたします!
にほんブログ村 小説ブログ 実験小説へ
にほんブログ村

長編小説ランキング

FC2ブログランキング
    このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ