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子宮頸がんの京子さんの施術を始めて、3週間が過ぎた。家を訪れるたびに、彼女は元気になっている気がする。私を迎えてくれる表情にも、生気が増してすこぶる調子がよさそうだ。
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子宮頸がんの京子さんの施術を始めて、3週間が過ぎた。家を訪れるたびに、彼女は元気になっている気がする。私を迎えてくれる表情にも、生気が増してすこぶる調子がよさそうだ。
以前の体の硬さが、もう気にならないほどやわらかくなっているし、あれだけポンと張っていたおなかもへこんでいる。さらに下腹部にあるあのリンパの腫れのザラつきも、かなり減ってきているようだった。
これはがんにも良い影響が出ているのではないか。内心、そんな期待が芽生えていた。言葉にはしなくても、京子さんも同じ気持ちのようだ。来週は手術前の最終検査の予定である。それまでの間にやれるだけのことはやってみよう。二人とも施術に力が入る。
そしていよいよ明日が検査という日、仕上げの施術が終わると、私のなかでは一つのことをやり遂げた気がしていた。初めのころは、あれほど私の指をはじき返していた左の起立筋も、グッとやわらかくなっている。下腹部のリンパの腫れだって、今日はもうほぼ手に当たらなくなっていた。
これでがんも消えていたらいいのだけど、もし消えていなかったとしても、これだけ体調がよければ手術も大丈夫だろう。
いよいよ検査結果の発表の日になった。私は他の患者さんの施術をしながら、京子さんからの電話を待っていた。期待と不安が入り混じった感覚は、どこか合格発表を待つ受験生のようで落ち着かない。
これじゃイカン。そう思って施術に集中していると、いきなり電話が鳴った。失礼して部屋の外で電話を開く。そこには「川上京子様(近野さん紹介)」と表示されている。
京子さんだ。私は大きく息を吐くと、一言も聞き漏らすまいとして電話を強く耳に押し当てた。すぐさま京子さんの声が響き渡る。「がんがなくなった~っ!」と叫んでいる。私が答えるまで、何度も何度も叫んでいる。私も「ヤッターッ」と叫んだが、声にはなっていなかった。目がくもる。鼻の奥も痛い。
京子さんの話では、検査画像を見た若い担当医は、この結果にどうにも納得がいかなかったようだ。やたらと首をかしげた彼の頭の回りには、「???」とはてなマークがたくさん飛んでいるのまで見えたという。
そりゃそうだ。1か月前にはたしかにあったがんが、いきなり消えているのだからふしぎに思うのは当たり前だろう。風景写真に写っていた山が、1か月後に同じ場所で撮ったら消えていたみたいなものだ。そんなことはありえない。
他の患者の検査画像と取りちがえたのか。はたまたピンボケだったのか。どちらにしても、検査画像にはがんが写っていないし、腫瘍マーカーの数値にも問題がないのだから、京子さんは手術の必要がなくなった。
もちろん本人は大喜びである。だがその数倍、私のほうがうれしいんじゃないかと思うほどうれしかった。しかし喜びが大きければ大きいほど、なぜか不安な気持ちになるのが私の性分だ。
何かの手ちがいで、がんはそのまま残っているなんてことはないだろうか。誤診がないとはいえないので、京子さんと相談して、別の病院でもがんの検査を受けることにした。結局、その病院でもがんは見つからなかったから、これでやっと安心できる。
私にしてみれば、がんが消えたのは当然の結果だという思いもあった。それと同時に、まさかそんなことがあるはずがないと、冷静に判断している自分もいた。本当に私の施術でがんが消えたのか。常識的に考えたらありえないことだろう。
そこでこの1か月の施術の一つ一つと、彼女の体の変化を思い返してみる。そのときの私の手の感触は、はっきりと記憶している。私の施術によって、京子さんの体が劇的に変化したのはたしかだ。そして左の起立筋の盛り上がりが、体調の変化と大きく連動していることもまちがいない。
そう思うと、また一つ気になることが浮かんできた。ひょっとして、今まで施術してきた患者さんのなかにも、京子さんや森本さんのように、左の起立筋がひどく盛り上がっている人はいなかっただろうか。
すると真っ先に思い浮かんだのが、須藤さんの姿だった。(つづく)
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