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今井さんがやってきた。
彼女が体のメンテナンスのために毎月来院されるようになってから、もう2年になる。いつもバリッとしたファッションに身を包み、さっそうと現れる姿はとうてい50歳には見えない。30代後半かせいぜい40歳といったところである。
その踊るような軽やかな足取りを見れば、彼女が10年前に悪性リンパ腫を発症し、死を覚悟するまでの体験をした人だとは、だれも思わないだろう。
今日もドアを開けて部屋に入ってくるなり、勢いよくしゃべり始めた。これはいつものことである。元気で何よりだ。
「いやホント、M先生に診てもらってから、すっかりヘルペスが出なくなりましたよ~。前はしょっちゅう口の脇に出たり引っ込んだりして、タイへンだったんですからネ。今はホラ」
今井さんは私に向かって口を突き出して見せると、ニッコリ笑った。
彼女は悪性リンパ腫の危機を乗り越えてからは、元気そのものである。それでも、頻繁に現れる口唇ヘルペスには、ずっと悩まされつづけていたのだ。
口唇ヘルペスは熱の花とも呼ばれ、ごくありふれた皮膚症状の一つである。疲労などによって免疫力が低下すると、ふだんは体のなかでおとなしくしているヘルペスウイルスが暴れ出す。その結果、口の周りに小さな水ぶくれができる。
水ぶくれだけでなく熱や痛みも伴う人も多いが、人の前に立つことが多い今井さんにとって、見た目が悪いのも気になるところだったらしい。
口唇ヘルペスは、たいがい2週間もすれば自然に消えてしまう。ところが人によっては、やっと治ったと思ったらまた出たということもよく起こる。
今井さんも、ちょっとした体調の変化でしばしば発症していた。しかし私のところで背骨のズレの矯正を受け始めてからは、口唇ヘルペスの発症の頻度がグッと下がったというのだ。
「背骨のズレを矯正すると、ウイルスが消えるんでしょうか」
ふしぎがっている今井さんに、私はあわてて、「ヘルペスウイルスが消えることなんてないですヨ」と訂正しておいた。
「でも、今井さんが私のところに来始めたころは、背骨のズレがひどかったですよね。特に首の1、2番目の骨がズレると、口元に向かう神経を刺激してしまうんです。そこを目がけてウイルスが暴れ出すから、口唇ヘルペスになってたのかもしれませんね」
彼女は「フーン」といって私の説明にうなずくと、
「つまり~、背骨のズレが免疫を低下させたせいでウイルスが元気になったのね」
と返す。私は説明がうまいわけではないので、今井さんは理解が早くて助かる。彼女は悪性リンパ腫になってから、自分なりに体について勉強をつづけていたそうだ。そのおかげで、免疫のシステムについてもくわしいのである。
「じゃ、帯状疱疹もヘルペスと同じしくみってこと?」
彼女はヘルペスだけでなく、帯状疱疹も経験していた。さらに帯状疱疹後神経痛と呼ばれる痛みにも悩まされていた。帯状疱疹後神経痛とは文字通り、帯状疱疹が治ったあとも、その部分に痛みがつづくやつだ。
「ここがずうっと痛かったんです」
今井さんは自分の脇腹を指さした。
「そういえば、今はぜんぜん痛くない。てことは~、これもズレのせいだったのね」
と一人で納得している。しかしつづけて、「じゃあ、あの悪性リンパ腫も」といいかけたので、私はまた、「それはちがいます」とすぐさま否定しておいた。
私は、「なんでもかんでも骨のズレのせいにしている」といって批判されることが多い。だが私自身はそう思ったことはない。
たしかに背骨のズレによる症状は、「なんでもかんでも」といいたくなるほど、多岐にわたるのも事実である。それでも、背骨のズレさえ矯正すれば、「なんでもかんでも」治るわけではない。そのことは私がいちばんよく知っている。
ところが、医者に見放された症状がズレの矯正で治った患者さんは、ともすると矯正の効果を過信、盲信しがちである。それは科学的ではないし、誤解は悲劇を生む。だから、ちゃんと説明しておきたいのだ。
「だまって信じさせておけばいいのに」とか、「欲がないですね」なんていわれることもあるけれど、モルフォセラピーが民間療法である以上、科学的であろうとする姿勢こそが、私の唯一のよりどころなのである。
実際、背骨のズレを矯正した途端、思いもよらぬ症状が治ってしまうことがある。しかしここで重要なのは、治ったことよりも、どうして治ったかなのだ。その原因と結果の間を埋める道筋を考える。そのしくみの解明が、私にはいちばん楽しい。
背骨のズレと免疫力の低下には因果関係がある。それはまちがいない。それなら、免疫力の低下で発症する〇〇や△△も、背骨のズレが原因なのだろうか? もしそうなら、それはどういうしくみなのだろう。そう考え出したら、またワクワクが止まらないのだった。(つづく)
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