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「愛した時から苦しみがはじまる。愛された時から別離(わかれ)が待っている」
これは、かの名曲「誰よりも君を愛す」の歌詞である。イイな~昭和歌謡は。やっぱり人生ってのは、出会いと別れによってつむがれていく物語なのである。
もちろん出会うのは、人とばかりとは限らない。たった1冊の本と出会うことで、その後の人生が大きく変わることがある。私も、先日立ち寄った本屋で大きな出会いを経験した。
私は時間が空くと必ず本屋か図書館に行く。この日もいつものように、帰り際に寄った青山ブックセンターで棚に並んだ本をながめていた。するといちばん上の棚に3冊並んだ本に目が止まった。
棚の位置から見ても、売れ筋の本ではなさそうだ。著者は三木成夫。初めて見る名前である。題名が『人間生命の誕生』、『生命形態の自然誌』、『生命形態学序説』となっているから、多分、形態学の本なのだろう。
形態学は解剖学などの総称なので、私の知りたいことが書いてあるかもしれない。パラッとめくってみたいところだが、ビニールに包まれていて中が見られない。よほど貴重な本なのだろうか。値段を見ると、それぞれ2400円、6602円、3690円で、3冊で1万円を超えていた。
自慢じゃないが、私は医学書以外で新しい本を買うことなんかめったにない。医学書だって、中身も見ないで大枚をはたくことなどありえない。ところがどうしたことか、このときは思い切りがよかった。迷わず3冊まとめて買ってしまったのである。
リュックに詰め込んで急いで家に向かう。財布は軽くなったが、リュックは重くなった。その重みでリュックが左右にゆれるたびに、読むのが楽しみでつい早足になる。青山から渋谷を抜けて駒場へ帰る道のりも、今日は全然苦にならない。
アパートの部屋に入るなり本日の収穫を取り出すと、私を拒んでいた例のビニールに手をかけた。一気に引きはがして本をじかに手に乗せると、やっと自分の物になった実感が湧いてきて、口元がゆるんだ。
何がこれほど私をひきつけたのだろうか。まずは全体をパラパラとめくってみる。3冊とも、解剖学的な記述と図が描かれている。三木成夫の略歴を見ると、東大の解剖学教室の出身で、芸大の先生をしていたようだ。彼はすでに亡くなっているから、これらの本は遺稿集として編まれたものらしい。
東大の解剖学といえば、あの養老孟司さんの先輩ということになるのか。「なるほど」と一人でうなずきながら、『人間生命の誕生』を手にとって、今度はゆっくりとページをめくる。すると1枚の図が私の目に飛び込んできた。
そこには人体の表と裏がイラスト風に描かれている。その人体の左側の起立筋に点を打って、そこが強調してあるのだ。こ、これは私が発見したあの現象のことではないのか。
あわてて図の出ているところの本文を読むと、「不調を訴える学生は、背中の左側、ちょうど胸椎7~9番あたりの筋肉にしこりを持っている人が多い」と書かれていた。
まちがいない。これはズバリ、私が探し求めていたあの異常な現象についての記述なのである。ドッキンドッキンと、耳にひびくほど自分の鼓動が早くなっていくのがわかる。
今までさまざまな医学書を手当たり次第に調べてきたが、この現象についてはどこにも載っていなかった。それをついに見つけたのだ。しかも権威といえるほどの解剖学者が発見していたとなれば、この現象が、単なる私だけの思い込みではないことがはっきりした。
これでやっとみんなにもわかってもらえる。そう思うとパッと目の前が明るくなって、トンネルにいきなり日が差し込んできたようだった。(つづく)
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