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「イッタタタタ~~~ッ」
足がつった。ふくらはぎが異様に痛い。グッスリ寝入っていた私は、あわてて起き上がった。枕元の時計を見ると、午前2時を過ぎたところである。
昨日は休みだったので、久しぶりに小田原の港で丸一日釣りを楽しんだ。その疲れのせいで昨晩は早めに寝ていたのだ。ところが痛い、痛い。ふくらはぎが裂けそうだ。ふとんから起き上がってしばらく悶絶していると、少しずつ痛みが引いてきた。
「やれやれ」
再び横になってウトウトし始めたら、今度はむこうずねがつり出した。またふとんから起き上がって足を見ると、親指があらぬ方向を向いているではないか。痛い、痛すぎる。
「もう、つるのは魚だけで十分なのに」
ブツブツいいながら、しばらく足をもんだりさすったりしているうちに、痛みが引いてきた。これなら寝られるか。そうだ。起きたついでにトイレに行っておこう。トイレからもどって寝直すと、ようやくそのまま朝を迎えることができた。
どうも釣りをした日の夜は、毎度のごとく足がつっている気がする。きっと釣り場で一日中しゃがんでいるのがよくないのだろう。
足がつるのは、医学的には有痛性筋痙攣(ゆうつうせいきんけいれん)というそうだ。原因の一つに筋肉疲労とあるから、私の足がつったのはこのせいである。
しかし筋肉疲労でなくても、足がつる人は多い。人によっては、靭帯が切れてしまうかと思うほど、とんでもなくひどいつり方をする人もいる。50代の山本さんがそうだった。
彼女は以前、頻尿で悩んでいたときに、同僚の紹介で来院された。腰椎が思いっきりズレていたので、そのズレを矯正したら、すぐに効果が現れた。それをたいそう喜んでくれた。
それ以来、何か体に不具合があると、私のところに相談しに来られる。足がつったときも、私に背骨のズレを治してもらえば治るんじゃないかと思ったらしい。
「センセ~、あれから頻尿はピタッと止まったままなのヨォ」
山本さんは部屋に入るなり、鼻にかかった独特の口調でお礼をいってくれた。そして「またお願いネェ」と「ネ」が鼻に抜けていく。声だけ聞いていると色っぽいお姐さん風だけど、本人はいたってサバサバした人である。
たしかに背骨のズレのせいで足がつることはある。だが、ズレを矯正したからといって、足がつるのが何でもかんでもスパッと治るわけではない。
一口に足がつるといっても、原因は一つや二つではない。これが私の実感だ。だから山本さんにも、矯正の効果には期待しないようにと念を押す。だが彼女は、逆に私のこの説明に信憑性を感じてくれたようだ。
「私もネ、いろいろとネットで治す方法を調べたのヨ。でもネ、書いてある通りに、マグネシウムだの漢方薬だのを飲んでみても、全く効果なんかなかったワ」
「あとネ、足がつったときのポーズやら、体操なんてのも一通り全部やってみたんだけど、そんなのじゃピリッともよくならないのヨ。全くいい加減なことばっかり書いてあるのよネッ」
そういって一気にまくしたてた。かなり憤慨しているので、語尾が鼻に抜ける感じは若干少なめだった。
足がつる原因の一つに、運動不足やら食事内容が挙げられることもあるが、彼女は日ごろから適度に運動し、規則正しい生活を心がけている。食事にも気を使っているから、これまで特別な病気もない。
しかしあんまりにも足がつって眠れないので、病院で診てもらった。それでも結局、医師は彼女がネットで調べたのと同じことしかいわなかった。もちろんこれといった治療法もないままだ。
まあそうだろう。医学的に原因だとされていることなんか、だれにでも当てはまるようなものばかりなのだ。とはいっても、私にできることといえば、腰椎のズレを矯正するだけである。
もしかしたら年齢的なタイミングもあるかもしれないから、「あとは自然治癒力に任せましょう」と説明しておいた。
すると半年ほどたったころ、以前ほど足がつらなくなってきたらしい。それなら、山本さんの足がつるのは、年齢的なものだったのか。
どっちにしても、足がつる仕組みはわからないままである。私としては、仕組みがわからないのはもどかしい。何でもかんでも私の手で治してあげたいと思うのはエゴなのかもしれない。だがこれだけ苦しんでいる人がたくさんいるのに、医学の世界では、大して重要視されていないのがもどかしいのだ。
もちろん、この世には自然治癒力に任せるしかない病気はたくさんある。それに納得できないのは傲慢な気もする。それでもやっぱり、「何とかならないか」と毎日考えているのである。(つづく)
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