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どうにか他の患者さんの予約をやりくりして、最初の施術の3日後には京子さんの家に向かった。
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どうにか他の患者さんの予約をやりくりして、最初の施術の3日後には京子さんの家に向かった。
たとえ無料奉仕だとしても、がんという病気の程度から見れば、最優先になって当然だろう。何よりも、最初の施術が終わってからというもの、彼女の体調が気になって仕方がなかったのだ。
はやる気持ちで、いつもより早足になったせいか息が切れる。家に着いて、やっとのことで息を整えながら呼び鈴を押すと、前回同様、やせ細った京子さんが顔を出す。
私だって、まだまだインド帰りの栄養失調状態から抜け出せていないから、他人の体型をどうこういえる立場ではない。しかしやせているとはいえ、今日の京子さんは前回とは印象がちがう。私の欲目かもしれないが、心なしか元気そうである。
本人の話では、この前の施術の翌日に39度もの熱が出たようだ。大人になってからはそんなに高熱が出たことはないらしい。ところがそれだけの熱も、次の朝にはスッと下がって、今日はいつもよりも気分がいいのだという。
そういえば森本さんも、最初に刺激した翌日には熱が出たといっていた。次の日にはすぐ下がったし、本人は体調がよいので気にもしていなかったのを思い出した。
二人ともかぜを引いたわけでもなく、ただ高熱が出ただけだった点が共通している。そうすると、私が刺激したことで熱が出たのだろうか。もしそうだとしても、結果的には大きな問題ではなさそうだ。
しかし世の中には熱に非常に弱い人がいる。私の母などはその典型で、たかだか37度でも大騒ぎして病院にかけこむ。病院に行く元気があれば寝ていたらいいのにと思うが、そんなことをいったら不機嫌になるから、家族はだれも立ち入らない。
一方、医学部教授を父にもつ友人は、子供のころから「かぜぐらいで病院に行くな。病院は重病の人が行くところだ」といい聞かされて育った。だから40度の熱が出たときも、「寝てれば治る」といって自力で治していた。
私もインドで、意識を失うほどの高熱に見舞われたことがある。それでもいつしか自然に治っていた。そもそも人間には、自然治癒力が備わっているから、たとえ病院でどんな治療を施そうと、最終的には本人の治る力で治っているのである。
逆に病気が治らない状態というのは、自然治癒力に何か問題が発生しているのだ。がんだって同じだろう。がんができても、自然治癒力が正常に働いていれば大きくならない。がんが大きくなってしまうのは、体のなかで何かがネックになっているからだ。
だから、そのネックになっているものを取り除くことができれば、自然治癒力が復活してがんを治してくれるはずだろう。
現実はそう単純ではないかもしれない。しかし森本さんや京子さんに熱が出たのは、本来の自然治癒力が復活した兆しではないのか。もしそうだとしたら、あの盛り上がった左の起立筋は、自然治癒力のレベルの指標になるのかもしれない。
それなら、盛り上がった左の起立筋が平らになって、パーンと張ってこわばっていた体がやわらかくなったら、がんも消えてしまうのだろうか。
そんなことが実現可能かどうかは私にもわからない。もちろん手術前の京子さんに伝えて、いたずらに期待させるつもりもない。だがこれで目標がはっきりと定まったことが、今の私にとっては重要だ。
そして高まる意欲とともに、京子さんのがんとのセカンドバトルが始まった。(つづく)
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