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「ホ~~ォ、ホチョチョ♪」

まだうまく鳴けない若ウグイスの声とともに、ようやく春がやってきた。

「あ~ぁ、もうすぐ暑くなるのか」

せっかく春が来たばかりだというのに、気持ちが夏へと先走って、ついつい憂鬱になってくる。だがそんな後ろ向きな気持ちを吹き飛ばしてくれる友だちがやってきた。

久保くんと本間くんは、毎年春になると山菜を採りに山に入る。そしていつも、食べきれないほどたくさんの山菜を持ってきてくれるのだ。

山菜採りは山歩きのアップダウンに加えて、大量の山菜を背負っての移動になる。その上、前日に雨でも降ろうものなら、とんでもなくたいへんな作業である。

いい加減、中年盛りの私にはとうていムリだ。彼らは私と同年代のはずなのに、平気でそんな重労働をこなしたあと、わざわざうちまで寄ってくれるのだ。

「元気だね~」

というと、それまでニコニコしていた久保くんが急に真顔になった。

「イヤ、実はヨ~、2か月ぐらい前に死ぬとこだったんヨ」

意外な告白に、一緒に山に行った本間くんも、「エッ」とおどろいて久保くんを見た。

「家で急に息ができなくなって、そのままぶっ倒れたんだ。肺気腫ってやつでヨ、おっかぁがビックリして救急車を呼んだんだ」

久保くんは神妙な面持ちでつづける。

「でも肺気腫だと、近くの病院じゃダメだってんで、隣町のおっきい病院に運ばれたんだナ。オレはあとから聞いたンだけどヨ」

そのとき生死の境をさまよったらしく、久保くんは倒れてからの記憶が全くなかったらしい。

肺気腫というのは、酸素を取り込む肺胞が破壊されて、弾力を失ってスカスカになってしまう病気である。別名タバコ病とも呼ばれるそうだが、一旦なったら元にはもどらないそうだ。

「そ、そんな体で山なんか登って大丈夫なの?」

けっこう深刻な病気だから、私も本間くんも言葉が出てこない。深刻な空気が流れると、つい西の人間の血が騒いで、この場の雰囲気を和ませたくなった。

「生死の境をさまよったんならサ、だれか出てこなかったの?」

私が軽い調子でそう聞くと、久保くんは「待ってました」とばかりに、さらに真剣な表情になった。

「それヨォ。死んだジイさんとバアさんに、オヤジまで川の向こう岸に立っててヨ。そこは青空がどこまでも広がっててナ、小鳥たちが飛んでて、今まで見たこともないキレーな花が咲いてるんだ」

彼は話をしながら、見てきた光景を思い出してウットリしている。彼の表情がゆるんだので、話を聞いているこちらも和んできた。

「でもナ、イ~ィところだな~と思って眺めてたら、ジイさんたちがヨ、こっちに来るな~、こっちに来るな~って必死になって手で合図すんだヨ」

リアルな話である。そこまで聞くと、本間くんも会話に参戦する。

「オマエ、三途の川の渡し賃、持ってなかったんだろ」

皮肉屋らしく、いつもの調子でツッコミを入れた。ところが久保くんは表情を変えない。

「三途の川にはヨォ、もう渡し船なんかなくてナ、大きくて立派な橋がかかってんだ。でナ、橋には金やら銀やらの豪華な飾りがついててナ、ピカピカ光ってえらいキレイなんだヨ」

そういって、見てきた情景を思い出してまた陶酔している。

まあ今の久保くんは元気だし、光景がキレイだったんならそれはそれでよかった。でもそれって、まぎれもなく臨死体験てやつじゃないか。そういえば以前にも、似たような話を友だちから聞いたことがあった。

医学関係の仕事をしている三木くんは、あるとき心筋梗塞で集中治療室に運ばれた。症状がかなり重かったので、意識不明の状態がつづいて何度か死にかけた。

そのときも彼の目の前には川があって、向こう岸にはもう亡くなった知り合いの顔が見えた。あちらには何ともいえない美しい景色が広がっているので、彼はすぐに川を渡ろうとした。

すると突然、背後でドスンと地響きがした。おどろいて振り向くと、そこには札束がギッシリ詰まった米俵が落ちていた。

「ウワッ札束だッ!」

そう叫んだところで、彼は集中治療室のベッドの上で意識がもどった。それを聞いたみんなも、あまりにも意外な展開に大笑いだった。

それにしても、あの世を見てきた人たちの話からすると、やっぱりあちらは、見たこともないほど美しいところなのだろう。そう思うと、いつか行く日がちょっと楽しみになってくるのだった。(つづく)

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