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2日間にわたる「神の手千本プロジェクト」第一弾、「腰痛講座」が無事に終了した。お世話になったサポートの先生たちといっしょに今から反省会、という名の打ち上げだ。向かった先は池袋駅近くの居酒屋「天狗」である。
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2日間にわたる「神の手千本プロジェクト」第一弾、「腰痛講座」が無事に終了した。お世話になったサポートの先生たちといっしょに今から反省会、という名の打ち上げだ。向かった先は池袋駅近くの居酒屋「天狗」である。
素人さん相手の講習会は初の試みだったから、教える側も緊張した。だが、全国から集まった参加者さんたちは、たった2日でみごとに矯正の技をマスターしてくれた。そしてお互いに再会を約束して、それぞれが神の手への道を歩み始めたのだ。
「でもこんなに短時間で、素人がかんたんに技術を習得しちゃったら、そのうちプロの治療家なんか、要らなくなっちゃうのかもしれないっスね」
最初のビールがそろそろ終わりに近づいている。大外先生は次に頼む焼酎を選びながら、メニューに目を落としたまま真顔でつぶやいた。
そうかもしれない。矯正をマスターした人が家庭や職場にいれば、腰痛程度ならその場で治してもらえる。それはすなわち、患者さんが治療院に来なくなることを意味しているから、プロの治療家にとっては死活問題にもなりかねない。
だが、そんな後ろ向きな発想ではイカンのだ。これからのプロは、直接患者さんを治すのではなく、素人さんたちに治し方を教えるのが仕事になればイイと思う。
学校の保健体育の時間や職場の新人研修、カルチャーセンターあたりで、みんながこの手技を習うのが当たり前になれば、指導者のニーズはいくらでもある。さらに、プロを自負するのであれば、素人では治せないむずかしい症状だけ引き受ければいいのだ。
そのためにも、これからはどんどん指導者を増やしていかねばならぬ。それがわれわれの使命なのである。そんな未来を語っていたら、いちばん若手の森本先生が身を乗り出して、「じゃ、講習のDVDも作ったらいいンじゃないスか」と提案してくれた。
そうか、DVDという手があったか。
世の中には、治療家のDVDがたくさん出回っているのは私も知っていた。今回の講習会の募集をかけたときにも、地方での開催予定はないのかと聞かれたくらいだから、遠隔地の人はDVDで学べたら便利だろう。
「よ~し、ソレやろうそれ!」
手技の普及に向けて、みんなも大いに盛り上がっていた。とはいえ、こういう話はだいたいが酒の席だけのものである。私もDVDのことなんか、すっかり忘れて1週間が過ぎた。
今日も治療院での施術が終わったところで、打ち合わせのために杉本さんがやってきた。事務的な用事がすんで私が一息ついていると、杉本さんが突然、「近いうちに、先生のDVDを出すことになりました」という。
「ハ?いつのまに?」
彼女の話が唐突なのは毎度のことだが、さてなんと答えたものか。一瞬考えていると、「つきましては、タイトルには先生の療法の名前が必要なので、名前、考えてください」とつづけた。
どうやらあの反省会の席での話が、杉本さんサイドではすでに具体的に進められていたようである。それはありがたい。もちろん私も、新しいことにチャレンジするのは大賛成だ。
しかし名前か~。そういえば、私の手技にはまだ決まった名前がない。税務署相手には「整体」と書くしかなかったが、「整体」では東洋医学になってしまう。私の理論はあくまでも現代医学がベースなので、違和感が強い。
だが単なる「背骨の矯正」では、いかにもオリジナリティーに欠ける。そこでしばらくの間、「形態矯正」と名乗っていた時期もあった。
「形態矯正」は、人類史上最大の天才と自称していた、かのゲーテが考案した「形態学」からとった名称だ。これはこれでわかりやすかったし、ムサビの関口先生も、「オ、その名前いいじゃないか」と気に入ってくれていた。
ところがいざ、「形態矯正実践集中講座」なんて書くと、とにかく漢字だらけで硬すぎる。こういう名称は、柔道整復師とかの国家資格者には受けがいいけれど、とっつきにくそうで一般の人からは敬遠される。
「名前っていわれてもな~」と私が頭を抱えていると、杉本さんはさっさと見切りをつけて、ネットで何やら調べている。
「えーっと、形態学はモルフォロジーですから、モルフォロジーに基づいた療法ということで、モルフォセラピーではどうですか」
お、横文字ときましたか。モルフォセラピー、モルフォセラピー、略してモルセラ。何度も口に出してみた。いいにくくはないし、響きも悪くない。なんとなく文字ヅラの印象がやわらかいのもイイ。私は即座にOKした。
これで私の療法にもやっと名前がついたのだ。ヤッタ!だがのん気に喜んでいる場合ではない。杉本さんからは、来週までにDVDの撮影用の台本を考えてくる宿題が出た。
その台本を元にして、撮影監督と打ち合わせをすることになっているそうだ。監督に台本なんて映画みたいじゃないか。しかもその監督は、映画館で上映されるレベルの映画を作っている人らしい。それを聞いてちょっと緊張してきた。
私がまたまた「うーん」とうなっていると、杉本さんは「あの腰痛講座のときに作ったテキストに沿って、組み立ててみたらイイんじゃないですか」と助け舟を出してくれた。
それならできそうだ。これで神の手千本プロジェクトに向かって、またまた大きく前進できる。目の前が明るくなってニヤついていると、杉本さんは、「この手のDVDは大して売れませんので、あまり期待しないように」と釘をさす。
でも、でも、たとえDVDが1枚しか売れなくたって、その1枚から伝わった人が、大きく広めてくれるかもしれないじゃないか。DVDなら、国内のどこでも、いや海外にだって広まっていく可能性もある。
私には、このモルフォセラピーのDVDが世界中に羽ばたいて、千本の手に届けられる未来が見える。期待するなといわれても、やっぱり無性にうれしくなってしまうのだった。(つづく)
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