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会田先生に再会してからというもの、先生の紹介で美大の教授たちが次々と来院するようになった。うちは紹介性のシステムなので、クチコミほどありがたいものはない。それでも学長まで来られたときには、何だか恐縮した。
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会田先生に再会してからというもの、先生の紹介で美大の教授たちが次々と来院するようになった。うちは紹介性のシステムなので、クチコミほどありがたいものはない。それでも学長まで来られたときには、何だか恐縮した。
そのなかには、私が学生のときに課外講座で水泳を教わった、体育の河合先生もいた。先生の的確な指導のおかげで、私は水泳が得意になったし、今でも泳ぐのは大好きだ。
その河合先生が突然ぎっくり腰になった。それを聞きつけた会田先生が、「腰痛なんだったら、ぜひ!」といって、私を紹介してくださったそうだ。
河合先生にお目にかかるのは卒業以来なのに、先生はなぜだか私のことをよく覚えておられて、「あれから何年たつ?オレは来年退官なんだゾ」といってなつかしそうにしてくれた。
先生は若く見える。もう有に20年以上たっているはずなのに、私が学生のころとちっとも変わっていない。相変わらず筋骨隆々だ。それでも腰痛になるんだから、やっぱり腰痛と筋力の強弱とは別モノなのだろう。
先生は、話しながらちょっと姿勢を変えるたびに、苦痛で顔がゆがむ。かなり痛そうなので、早く治してあげなくちゃ。まずは背中を見せてもらうと、セオリー通りに背骨が左に大きくズレていた。
「ここがこういう風にズレると、腰痛になるんです」
そう説明しながら、ズレている背骨に指を当てて軽く矯正してみた。すると大きくズレていた骨が、すぐに定位置におさまってくれた。矯正をくり返す必要もないほどだ。なんと聞き分けのいい骨だろう。これなら症状にも変化があるはずだ。
「先生、どうですか?」
「え、もう終わったのか?」
あんまり短時間だったので、先生は半信半疑で立ち上がると、腰を曲げたり伸ばしたりして痛みがないかをたしかめた。
「ホー、さすが評判通りだナ!」
そういうと、教え子の成長を愛おしむように目を細めた。そのあとも、いかにも体育の先生らしいキビキビとした動きで、ラジオ体操みたいな動きをくりかえしている。しばらくすると、もう安心したのだろう。
「どうだ、ちょっと行くか?」
右手でクイッと盃を傾ける仕草をして、私に向かってニヤリと笑った。
それで思い出した。河合先生といえば、とんでもない酒豪として学内で有名だったのだ。水泳合宿で伊豆に行ったときだって、指導の合間も酒を欠かさなかったほどである。
「すみません。まだ患者さんの予約があるので。でも、背骨のズレを矯正した日は血流がよくなって、酒がいつもよりも回りやすくなりますからね。気をつけてくださいね」
これは、来院した患者さんには必ず伝えていることだけど、きっと河合先生にはいうだけムダだっただろう。
次の日の朝、「先生はあのまま飲みに行ったのかな~」なんて考えていたら、当の先生から電話がかかってきた。腰痛がぶり返したのだろうか。ところが電話に出てみると、どうも先生の様子がおかしい。
「いや~、キミのおかげでナ、今朝スゴかったんだ。ホントにすごい効果だヨ」
先生があんまり「すごい、すごい」とくり返しているから、私はてっきり腰痛が治って調子がいいのだと思って聞いていた。だが何かがちがう。
「全く久々だよ~、ここんとこ全然ダメだったんでナ、いや、ホントにありがとナ」
お礼をいわれた私は、反射的に「イエ、どういたしまして」と答えてその場は終わった。
電話を切ってしばらくたってから、私はハタとひざを打った。そうだ!あれは腰痛が治ったからじゃない。先生は今朝久しぶりに、男性機能が回復したのがうれしくて電話してきたのだ。
たしかにそういうこともあるだろう。背骨のズレの矯正で腰痛が治ったら、いっしょに生理痛や尿もれ、便秘まで解消したという話は患者さんからよく聞いていた。
しかし背骨のズレが、EDにまで影響していたなんて話は初めてだ。これまでにも、腰痛といっしょにEDが治った人はいたのかもしれない。だが男性機能の話なんて、男同士でもあまり口にすることはないから知らなかった。さすが美大の先生ともなると、開けっぴろげなのがイイ。
そもそも、背骨のズレを矯正すると、ズレによって滞っていた血流が回復する。そのせいで、ふだんよりも酒がよく回ったり、薬の効果が強く出たりもするのだ。それなら矯正で血流がよくなったことで、男性機能にも影響があると考えるのは、論理的にもおかしくないだろう。
そうなのか~。だが待てよ。この分だと河合先生は、酒の席でもこの話をする可能性が高い。そこにEDで悩んでいる人がいたら、先生の紹介で来院するかもしれない。特にアッチ方面はクチコミになりやすいから、大いにありうることだ。
でもそれってどうなんだろう。もちろん私は、患者さんの選り好みができるご身分ではない。しかしヤル気満々の初老男性が、私の元へ大挙して押し寄せるような状況は、ちょっとご遠慮申し上げたい気がしないでもないのだった。(つづく)
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